85系の衝撃

1.外国製700馬力

 永らく意欲的な高性能気動車の登場の無かった時代が過ぎ、ついに新しい世代の気動車が登場することとなりました。 JR東海が昭和63年に発表した85系は、従来の国鉄気動車の延長線上には無い、まったく新しい発想によるものでした。


 心臓部のエンジンは延々と続いた国産機関と完全に決別し、世界的に高いレベルにあったカミンズ製を採用、再び大出力1台機関方式から82系時代のような小出力2台機関搭載に戻ることになりました。
 しかし、小出力といっても、この時代ではエンジン1台が82系の2台エンジン搭載に近い性能を持ち、軽量化も進歩、実質的な性能はほぼ82系の2倍というハイパワーを持つに至ったのです。

 重量当たりの出力を計算すると、積車で15馬力を超え、見かけ上は485系電車8M4T編成の実に1.5倍に達する驚異的なものとなったのです。(注:電車の魔力と新世代気動車の悲しさは他の章で解説しています。)

2.念願の直結段変速

 これまでの気動車は液体変速機で1速、2速目は直結1段のみというのが常識でした。 キハ60で流体継手の充排油方式を使って直結段に相当する部分の2段変速機の試験が行われましたが実用化できず、181系も直結1速のまま、80km/h以上まで液体変速機で引っ張るという空前絶後の変速運転で直結1速の不利をなんとかカバーしようとしたのでした。

 しかし、電子制御技術が機械系にも浸透する時代を迎え、従来のばねや遠心力や電気接点で行っていた走行装置全体の制御が非接触無接点の高速高精度制御可能な電子制御へと変わっていったのです。 結果としてエンジンを毎分数回転の誤差で制御できるようになり、走行中に歯車を切り替えることが可能な変速機を、信頼性を確保したまま気動車でも利用できるサイズで実現できるようになりました。
 直結段2速変速機を採用することで、気動車が苦手だった60〜90km/h辺りの性能低下、効率低下を補えるようになり、長年の夢であった電車並みの走りを手に入れることができるようになりました。
 下の図は485系8M4T(青線)とキハ85系(黒線)、そして181系の液体変速機を用いて85系並みの出力のエンジンを搭載した気動車を作った場合の速度ー出力特性曲線です。

 強力化された85系もさすがに20%過負荷運転が標準設定の485系8M4T編成にはまだまだ及びませんが、この性能の気動車を国鉄時代に作った場合と比較すると、70〜95km/hでの性能低下が減少し、電車との差が縮まっているのがわかります。
 これこそが直結2速化の効果で、液体変速機を使用しないために効率もよくなり、低燃費化にも貢献したのです。

 加速力曲線にすると具体的な効果がわかります。

25パーミルの均衡速度を見ると、直結1速方式で設計すると75km/h程度しか出ませんが、直結2速化することでちょうど25パーミルで最大出力を有効に利用できる状態となり、95km/hに迫っています。 電車を後10km/h差というところまで追い上げています。
 しかし、残念ながら1速から2速にシフトアップすると、5kg/t以上も落差ができてしまい、直結2速では20パーミルでもそれ以上加速できないという状況になります。

 これはディーゼル、ガソリン、バンケルロータリーなどに共通する宿命で、一定容積のシリンダー内で圧縮爆発を繰り返す容積型機関では避けられない特性です。 変速段数をさらに増やせばこの欠点は改善することになるものの、機構の複雑化や変速タイミングの増加による性能低下があるため、そうむやみに増やすわけにもいきません。

 

3.絶好調

 キハ85は高山線に投入され、軌道強化も相まって大幅にスピードアップ、快適な車内と高速性は乗客増を呼び、絶好調となりました。
 国鉄時代、電化が決定していた同線も気動車だけで十分な近代化ができることを示し、紀勢線への投入、名鉄での同形式車両採用へと発展しました。

 しかし、ひとつ問題がありました。 キハ391ほどの速達化が望めなかったのです。 エンジンそのものの問題でガスタービンに勝てないというわけではありません。 

 下の図は伯備線での走行シミュレーションの例です。

 キハ82系と比べ10分の高速化が図られたのは高山線とよく似ています。 しかし、キハ181系と比べるとなんと1分しか短縮していません。 高山線では軌道強化、曲線改良と台車自体の性能向上で曲線通過速度がある程度向上していますので、もう少し差がつきますが、振子式ガスタービンで曲線通過速度を20km/h向上した場合と比べるとその差は歴然としたものとなってしまいます。

 そうです、すでに単なる出力向上では181系クラスで曲がり角となっていたのです。 やはり振り子式車両が必要となっていたのです。 しかもその誕生は目前になっていました。

(写真はいずれもYK氏のご好意による)

---------------------------------以下は平成31年追加-------------------------------------------------

4.いよいよハイブリッドへ

 昭和に誕生したキハ85も流石に車齢が30年を過ぎ、JR東海は後継車両の開発に乗り出しました。JR北海道が経営不振で試験を断念したハイブリッド方式による特急気動車です。しかもJR北海道と異なり純粋なシリーズ方式のハイブリッドと決まりました。
線形的に電気式で大丈夫なのか、ハイブリッドの効果があるのか、高価なハイブリッドシステムなど車両価格に見合ったものが得られるのか考えさせられる面もあります。
 振り子もさせずさらなる高速化も意図していないようなのでキハ85クラスの性能が出れば十分でしょう。時代の趨勢に沿って環境をアピールするような意味合いを込めての開発かもしれません。気動車はなくなるの?で書きましたが現時点では妥当な選択でしょう。
 経営の厳しいJR四国が必死で低価格路線で液体式多段変速高出力振子気動車で張り切っているのとは対照的とも言えます。経営にゆとりのあるJR東海ならではの車両とも言えそうです。ターボトレインのサイトにひだのハイブリッド化に関連したディーゼルハイブリッドとガスタービンハイブリッドの比較記事があります。電気式ディーゼル動車でもキハ181はもちろんキハ85より走りが良い時代になろうとしているのには驚かされます。

 

 

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