定格では100km/h

1.気動車の出力とは?

 気動車の出力は当然、エンジンの出力で決定します。 前節で見たように動力伝達装置の特性で最終的な駆動出力である動輪周出力が決まるわけですが、基本はエンジンにあります。 エンジンの出力は何かというと、回転する力と回転するスピードを掛け合わせた値です。 つまり回転力が強く回転速度が速いほど出力は大きくなります。
 では回転力を決めるものは何でしょうか。 同じエンジンなら供給される燃料の量で決まります。 もっと厳密に言えば一回の爆発に供給される燃料の量が決定します。 適正な燃焼をするには供給できる燃料の量に上限がありますから、出力を上げるには回転数を上げて爆発する回数を増やさなければなりません。 しかしエンジン自体の強度とか耐久性の関係でこれにも上限があり、車両用では毎分2000回転くらいが標準です。

 181系に採用されたDML30HS系のエンジンは連続定格500馬力、1600rpm(毎分回転数)、30分定格590馬力、2000rpmとなっていますが、両者の違いは回転数の違いだけで、一回転(厳密には一行程)当たりの燃料供給量は同じなのです。 ディーゼルエンジンは一行程当たりの燃料噴射量が決まっている場合、その出力は回転数に大まかに比例します。 つまり800rpmなら出力が200馬力ちょっとになるのです。 実際の車両でこれがどういう状況かというと、ちょうど181系が直結のまま50km/hくらいでフルノッチに入れた時です。 この時、181系はフルノッチとはいえ、エンジンはわずかに200馬力ちょっとの力しか発揮していません。

 

2.気動車の最高速度とは?

 次に気動車の最高速度を考えてみましょう。 最高速度はエンジンの回転数と動輪の直径、両者をつなぐ動力伝達装置の減速比で決まります。
 車輪は使用するにつれて磨耗して直径が小さくなります。 そこである直径以下になると新しいものに交換します。 一般に860mmの直径の車輪は780mmまで小さくなると交換することになっています。 そこで動力伝達装置の減速比は車輪径が最小になったときに規定の速度が出せるように設計されています。 つまり通常の気動車では780mmの直径の車輪で営業最高速度が出せるように設計されているわけです。

 そこで各車の設計速度を動力装置の定格回転数と減速比から計算してみましょう。

形式

減速 機関回転数 速度 (780mm) 速度(820mm) 速度(860mm)
181系 2.362 1600 99.7 104.7 109.8
65系 2.995 1600 78.5 82.6 86.6
66・67系 2.976 1600 79.0 83.1 87.2
82系 2.613 1500 84.4 88.7 93.1
58系 2.976 1500 74.1 77.9 81.7
初代183系 2.743 1600 85.8 90.2 94.6
183系500 2.417 2000 121.7 127.9 134.1
183系1000 2.280 2000 129.0 135.6 142.2
183系130km/h用 2.000 2000 147.0 154.6 162.1

 これを見て気づくのは初代183系以前の車両は定格回転数で本来の営業最高速度が出ないことです。 ところが、183系500番台以降は機関の定格回転数が2000rpmになり、定格回転数で営業最高速度をカバーできるようになっています。130km/h対応の183系は国内気動車最高記録152km/hを樹立した試験車の減速比を引き継ぎ、かなりハイギヤードな設定で加速力が弱くなっていますが、最高速度を130km/h以上に向上しようと考えていた可能性があります。

 つまりここで気動車の設計方針が大きく変わったわけで、181系の苦い経験から、定格出力を超えた運転はやらない方向へ進んだのです。

 下の表は30分定格回転数での速度を計算したものです。

形式

減速 機関回転数 速度 (780mm) 速度(820mm) 速度(860mm)
181系 2.362 2000 124.5 130.9 137.3
65系 2.995 2000 98.2 103.2 108.3
66・67系 2.976 2000 98.8 103.9 108.9
82系 2.613 1800 101.3 106.5 111.7
58系 2.976 1800 88.9 93.5 98.0
初代183系 2.743 2000 107.2 112.7 118.2

 こうすることでやっと規定の営業最高速度を達成しているのがわかります。 キハ58がやや少ないのでさらに無理をしていた可能性がありますが、連続高速走行はあまりなく問題は無かったのかもしれません。
 初代183系を110km/h運転する際、780mmで107km/hしか出ないことが問題になったのは有名で、車輪の交換を早めに行うことで対応するという苦肉の策に出たのです。

 181系の機関保護回路は2200rpmで作動するようになっていました。 130km/h以上で10パーミルを登る加速余力から考えると、もし無理をして速度向上試験をやっていたら150km/h以上に達する可能性がありますが、もちろんそんな試験は行われませんでした。

 

3.動輪径は運転時分に影響するか?

 ここで面白いシミュレーションをしてみましょう。 車輪径が速度に重要な影響を与えるのはわかりましたが、はたしてそれが運転時分に影響を与えるのでしょうか。
 車輪径の変化はちょうど駆動装置の減速比が変わったことを意味しますから、適正な設計という意味でも面白い内容です。

 下の図は中央西線 名古屋ー塩尻間を181系6Mで走行した時の正味の運転時分の変化を見たものです。 横軸は動輪径を表します。

 車輪がちびるにつれて到達時分はわずかですが短縮しています。 加速性能と勾配均衡速度が向上したためと思われます。

 下の図は同じ条件で燃料消費量がどう変化するかを見たものです。 縦軸は運転により消費される燃料の重量(kg)です。

 こちらも車輪がちびるほど燃料消費量が減少しています。 両者の結果から、181系は中央西線で使用するには高速仕様過ぎることを表しています。

 

4.出力は運転時分に影響するか?

 次に出力が変わるとどう影響するかも見てみましょう。

 同様に中央西線 名古屋ー塩尻間を181系6Mで走行した時の正味の運転時分の変化を見たのが下の図です。 横軸は編成総出力を表します。

 これを見ると、出力の向上が意外に高速化に寄与しないことがわかります。1両当たり830馬力にしても500馬力と比べてわずかに4分短縮できるだけです。

 逆に、1両当たり400馬力にパワーダウンしても3分遅くなるだけなのです。 

 上の図は燃料消費量の変化を見たものです。 400馬力へのパワーダウンで燃料消費量は4%程度減少します。 一方830馬力にすると7%程度増えます。

 わずか4分の高速化のために燃料消費量が7%増加し、3分遅く走れば燃料消費は4%改善。 当時、時代の流れは無理をしてがむしゃらに走る時代から、ゆとりを持ってのんびりしようという方向に流れていました。 故障も減って省エネになる。 必然的に燃料制御弁は絞る方向へ行ったのです。

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