当サイトでの性能解説はスーパーノッチマンというシミュレーションソフトを使用している関係上、スーパーノッチマン自体の持つ制約を受けます。具体的には、
加速性能の基本となる引張力特性、走行抵抗、列車重量は同ソフトに内蔵のものをそのまま使用しています。 同ソフトはこの分野の業務用ソフトとしてある程度の歴史と実績があると思われ、計算精度に関する問題点の指摘も見当たらないようなので手計算での検証は行っていません。 ただし、当サイトでは時々本来の設計速度以上で走行させるようなシミュレーションがありますが、設計速度以上での車両特性については同ソフトが保証するものではありません。
当サイトを開設したのは2000年9月ですが、商用ソフトウェアを使ってシミュレーションしている関係上、バージョンアップの影響を受けます。 スピードアップ2002及びスーパーノッチマンに付属する車両データ、線路データはその間に相当数追加されています。 そのため初期に行ったシミュレーションでは名古屋ー長野ですべきところが名古屋―塩尻間となっていたり、スーパーおおぞらのシミュレーションに281系を使用したりしていますが、これはページ作成時点で塩尻以遠のデータがなかったり、283系のデータがまだ搭載されていなかったためです。 前者については勾配区間がこの区間に多く含まれていて性能比較をするには十分なためそのままにしています。 後者についてですが、283系は281系に対し直結段が4段変速となり変速時のトルク途絶のないパワーオンシフトが採用され、加速性能が向上していますが、実質的な加速性能の差はわずかです。 283系が281系より運転時分で差をつけるのは曲線通過速度を高くできるからで、曲線通過速度、最高速度などの条件が同じの場合、運転時分への影響は(5)で示したようにわずかです。
同ソフトが内蔵する引張力特性はフルノッチのもののみで、ノッチ戻しに対応していない関係で算出される運転時分が走行条件によっては実際よりやや不利にることがあります。 定速走行モードを使うと近似できますが、その場合、逆に有利になり過ぎます。
ノッチ戻しとは勾配線向け電車用に設けられた機能で、勾配を上っているとき現在のノッチでは制限速度を超えてしまいそうな時、低ノッチに戻して速度超過しないように調節する機能で、通常はフルノッチ(5ノッチ)から全界磁直列最終段(3ノッチ)の間で可能です。 制御用抵抗器は通常、抵抗が減る方向へノッチ指令に応じて自動で進段しますが、ノッチ戻し機能があれば逆の方向へ、つまり抵抗が増える方向へカムが動作します。 たとえノッチ戻し機能があっても電流制御をおこなうわけではなくあくまでも抵抗値の制御ですので燃料噴射量制御を行う気動車のように引張力そのものを細かく調整できません。 そのため一定速度で勾配を上ることはできませんが、一旦ノッチオフにして再度ノッチ投入を行うよりも速度変動を少なくすることができ、運転時分上でもやや有利になります。
次の図は485系電車8M4T、8M5T編成の直流1500Vでの加速力曲線です。 図でFFとあるのはFull Fieldの略で、制御器が直列全界磁最終段まで進段したときの加速力を表わしています。 主幹制御器では3ノッチにあたります。 WFはWeak Fieldの略で弱め界磁を表し、63%は界磁へ流れる電流を抵抗器でバイパスして63%まで減らしていることを示し、主幹制御器では4ノッチにあたります。 そして40%は界磁電流が40%に減るまでバイパスした場合で主幹制御器では5ノッチにあたります。 界磁を弱めることで電機子の逆起電力を抑え、電機子電流の低下を少なくしてトルクが低下しないようにし、高速での加速力を確保するために設けられている仕組みです。
この図を参考にしながらノッチ戻しで速度、加速力がどう変化するか調べてみましょう。 8M4T編成が10‰の上り勾配と100km/hの速度制限がある区間を5ノッチで加速中だとします。 上の曲線からわかるように5ノッチでは100km/hでの加速力が30kg/tあり、そのままでは速度超過になります。 図を見ると100km/hでの加速力は3ノッチで7kg/t、4ノッチで17kg/tですので3ノッチでは100km/hを維持できず速度は低下しますが、4ノッチでは超えてしまいます。 そこで100km/hに達する少し手前でノッチを4ノッチに戻し、じわじわと100km/hまで加速、その後3ノッチとするか、100km/hまで5ノッチのまま加速し、3ノッチまで戻してじわじわと速度が下がるのを待ち、ある程度下がると今度は4ノッチ投入、以後は上記を繰り返すという操作ができます。 速度は一定ではありませんが、変動はかなり抑えることができます。
もし制限速度が75km/hだった場合、3ノッチでも28kg/tの加速力があり、10‰では18kg/tの加速余力が発生、3ノッチまで戻しても加速は続くため制限に達したら一旦ノッチオフする必要があり、ぎくしゃくした運転は避けられません。 一方、25‰で75km/hの制限を受ける場合は3ノッチでの加速力が勾配抵抗に非常に近く、かなりなめらかな運転が可能ですが、やはり速度超過が発生するため時々ノッチオフが必要になります。 25‰で65km/hの制限を受けた場合は3ノッチの定格速度以下の制限となりノッチ戻しは無効となります。
120km/h制限の平坦線ではどうでしょうか。 この場合、3ノッチでほぼ釣り合うためかなり安定した運転が可能ですが、わずかな勾配変化で速度超過することがあり、その場合はその下のノッチがないためやはりノッチオフにしなければならず、どうしても不安定になります。
このようにノッチ戻しの有効性は勾配と制限速度でかなり変化し、しかも直列全界磁最終段での定格速度(定加速領域の終端速度)をある程度超えている必要があり、特急車両の場合、勾配にもよりますが通常70〜80km/h以上となります。
次の図はノッチ戻しなしで力行、惰行を繰り返した場合の運転曲線です。 のこぎり状に速度が変化しているのがわかります。
このページでは制限速度に対する余裕は1km/hとして運転しています。 他のページの多くは国鉄時代にあわせて3km/hの余裕を持たせているものが多いため、同一線区でも比較する場合はその点を注意してください。
次の図は同じ区間を定速走行モードを有効にして運転したものです。
基準運転時分をもとに算出される運転時刻への影響を見たのが次の表です。 左側がノッチ戻しなし、右側が定速走行モードでの運転です。
長野までで運転時刻で2分の差が生じています。 181系電車や485系電車の場合、20%過電流での直列全界磁最終段の定格速度は67km/hになるため、上記の運転曲線の区間にあるような低い制限速度が多い線区ではノッチ戻しが有効に機能しません。 そのため定速走行モードでの運転曲線で示したような運転は不可能で、実際にはノッチ戻しなしの運転曲線のように加速減速を繰り返す運転が多くなります。
では75km/h以上で定速走行モードが有効になった場合にどの程度効果があるか見てみましょう。 次の運転曲線は75km以下ではオンオフを繰り返し、75km/hを超えたら定速走行可能となるように変更してシミュレーションを行ったものです。
次の表がその時の運転時刻です。
これを見るとノッチ戻しの有無で1分の差があります。 正味の運転時分を見ると、
ノッチ戻しが全くできない場合-----------3時間15分56秒
75km/h以上で定速走行有効の場合-----3時間15分20秒
定速走行モードが有効な場合-----------3時間13分49秒
となり、ノッチ戻しが全くできない場合と比べて36秒短縮する効果があります。 基準運転時分が算出されるときは駅間ごとにまるめが入るため1分の差として反映されていますが、実質的にはあまり効果がないのです。
一方、平坦線で勾配の緩い線区を高速運転した場合はノッチ戻し効果がやや有効になります。 同じ編成で新大阪―広島間を最高速度120km/hで運転した場合の正味の運転時分では以下のようになります。
ノッチ戻しが全くできない場合-----------3時間48分09秒
75km/h以上で定速走行有効の場合-----3時間46分46秒
定速走行モードが有効な場合-----------3時間45分59秒
高速運転できる比率が高いため定速走行できる時間が増え、その分時間短縮効果が出ています。
特急車よりも減速比が大きく定格速度の低い165系ではより低い速度までノッチ戻しが使えるため、曲線の多い山岳線では有利となるはずです。 165系の3ノッチ20%過電流状態での定格速度は56km/hですので、ノッチマンでの計算では63km/h以上で定速モードが作動するように設定しました。 この状態で上の中央西線のケースで最高速度を110km/h、停車駅は同じで計算した結果が次のようになります。 編成は6M3Tですが、次に解説している列車長が運転時分に影響するため12両編成と同じ長さで制限を抜けるとして計算しています。
ノッチ戻しが全くできない場合-----------3時間16分14秒
63km/h以上で定速走行有効の場合-----3時間14分30秒
定速走行モードが有効な場合-----------3時間14分07秒
予想通り、定速走行モード有効に23秒差まで近付いており、より低速までノッチ戻しができる165系のほうが速度制限の低い山岳線では有利ということがわかります。 なお、実際のノッチ戻しでの運転はインバーター制御電車の定速スイッチオンの走行はもちろん、きめ細かい燃料噴射制御ができる気動車ほど一定の速度を維持できるわけではありませんので、実際には上記ほどの有効性は得られません。
列車が速度制限区間を過ぎて加速する際、当然最後尾が制限区間の終端を通過してから加速します。 この場合、編成が長いとその分制限区間を脱するまでに余計に時間がかかり運転時分が伸びます。 特に低い速度制限が多数存在する線区では編成長が運転時分にかなり影響します。 例えば5両編成の列車と10両編成の列車を比較した場合、列車長は100m以上の差が生じます。 極端な例ですが、35km/h制限の分岐器を通過する場合を考えると、両者では加速開始まで10秒以上の差が生じてしまいます。 もちろんこの間にも列車は走っているのでこの10秒がそのまま運転時分の差にならないことは理解していただかないと困りますが、低速の制限を通過するほど影響は大きくなります。
次の図は2000系を高松―松山間に走らせたものです。 編成は2Mと7Mとし、差が出やすいように曲線制限は本則のままとしています。
運転曲線上でも制限通過後の加速開始位置がずれ、それにより後の運転パターンが変わっているのがわかります。 松山到着までの所要時分に52秒の差が生じています。
運転時刻では1分の差が生じています。
このように編成が短いほうが有利になります。 スーパーノッチマンには編成長を同一とみなして処理する機能がありますが当サイトでは実際に近いデータを示したいので一部を除き編成長を反映した運転時分を掲載しています。
現在の気動車は直結段に4速の変速機を持つようになり、かなり頻繁に変速がなされるため加速途中で加速が数秒途切れます。 283系のように列車が速度制限区間を過ぎて加速する際、当然最後尾が制限区間の終端を通過してから加速します。 この場合、編成が長いとその分制