33パーミル自力登坂
1.板谷峠
特急「つばさ」181系化により板谷峠での補機が廃止されることになりました。 これにより編成長に制限がなくなり、12両編成も可能となったのです。 下の加速力曲線は181系11M1Tと82系5M2mを比較したものですが、33パーミルでは82系の30km/hに対し、181系は50km/hと大きく均衡速度が向上します。 連続フルノッチ運転はできないのでそれぞれ1ノッチ戻した場合、82系は20km/hそこそこまで低下しますが、181系は40km/hを維持します。
82系も何とか液体変速機の最低許容速度以上を保っているため33パーミルを単独で登れないわけではありませんが、所要時間があまりに長くなるので補機の助けを仰いだのです。 同区間をキハ58・28の急行「おが」は単独走行していましたが、勾配区間では20km/h程度しか出ず、電車急行と大きな時間差を生じていました。
下の図は速度とともに動輪周出力がどう変化するかを見たもので、縦軸はトン当たりの出力、横軸が速度です。
181のトルコンは82系など旧系列のものより伝達効率が低いのですが、それでも181は50〜70km/h付近に最初のピークがあり、20〜33パーミル勾配での均衡速度に一致します。液体変速機の効率がよい速度領域が82系よりもかなり高速側にシフトしていて、勾配均衡速度向上に寄与しています。
実際にどの程度加速性能に差が出るか見てみましょう。 下の図がそれです。
車種は色別に181系7M、11M1T、82系5M2m、81系5M2m1Tです。
速度-時間曲線
速度-距離曲線(横軸単位はkm)
2〜3分程度で各編成とも均衡速度に達しており、一応フルノッチ5分以内という制限はクリアします。
しかし、その間にわずか1キロから2キロ程度しか走っていないわけで、板谷峠を連続フルノッチで越えられるわけではありません。 5ノッチ運転で40〜45km/hがせいぜいとなります。
板谷峠区間でのシミュレーションです。 これはフルノッチ走行の例ですが、1ノッチ戻した場合、82系は20キロそこそことなり、液体変速機の許容最低速度をかろうじて越える状態となります。 運転不能にはならないものの、運転時分が非常に長くなるので補機が必要となったのです。
これだけ均衡速度差が大きいと、運転時分に与える影響は大きく、補機付き82系編成に181系が単独登板で対抗できたわけです。
485系8M4Tでもこの区間では交流区間のため定格速度は60km/h程度しか出ず、福島-米沢間で見ても電車特急と比べて2割程度の時間差に収まっていました。
補機解消により編成長の制限が無くなり、12両編成化による大幅な輸送力向上も達成しました。
このまま順調に運転できていれば、181系は開発の本来の目的を完全に達成し、スターとしての栄光を手に入れたことでしょう。
しかし、その後の181系には苦しい日々が待ち受けていたのです。
付随車となった食堂車、これが意外に負担となったのも事実です。 下の図は上記区間を7Mと11M1Tで走行したものです。
勾配によっては5km/h程度の速度差が生じ、運転時分でも1分以上の差が生じます。 通常の運転ではあまり負担とならない食堂車も板谷ではかなりのお荷物だったわけです。
2.電車にも補機が
板谷峠は電車特急にとっても苦難の峠でした。 33パーミルの上り坂の途中で停止すると、いかに8M4Tの485系でも大変でした。
下の図は33パーミル勾配上での485系電車8M4T(交流運転)の加速特性を表す速度ー時間曲線です。
20%過電流起動を行っても80km/hまで加速するのに5分走る必要があります。
さらに怖いのは故障です。 降雪地帯を走る場合、電気系統のトラブルが時に発生し、1ユニットが故障すると、960KWのパワーダウンとなり、大きな痛手となります。
その加速力曲線を見てみましょう。
20%過電流でも33パーミル勾配からの起動すら困難な状況となり、運転はできません。 こうなると、板谷峠を超えるには補機の助けが必要となるのです。 電車は1ユニットが故障すると複数の動力車がダウンすることとなり、変速機を持たないため低速での力が弱く、液体変速機を持つ気動車のようにスピードを落としてでも柔軟に対応するというわけにはいきませんでした。
下の図は181系でのエンジンカット別の加速力曲線です。2両カットで本来の5ノッチ運転に近い性能となり、その5ノッチ運転となるとかなり時間延となりますが、運転不能になるような性能ではありません。