電車と比べたら

1.湘南電車

 当時の電車に対して気動車はどの程度の性能があったのでしょう。80系電車、51系電車と比較してみましょう。


下の図は平坦線での加速性能で、何秒後に何km/h出ているかを示します。

トルクコンバーターがあるため気動車は出だしがよいのですが、すぐ加速が頭打ちになってきます。30km/hを超えると加速力は電車に負けてしまいます。一方電車のほうは速度がかなり上がるまで加速力が衰えず、80km/hくらいになって衰えてくるものの、最も頻繁に加減速を繰り返す、30〜80km/h辺りの速度が得意という有利さを持っています。

 何m走ったところで何km/h出ているかを見ると、この差が大きくなります。 

この組み合わせでローカル山岳線を走らせて見ましょう。木次線です。

    

 電車が完全に勝っています。運転曲線ではどうでしょうか。

気動車は20パーミル前後の勾配に大きく影響され、速度が変動しています。電車のほうは勾配というよりは曲線制限が邪魔で、制御装置の関係から力行惰行の繰り返しで坂を登るという状態です。

2.特急、急行

 優等列車ではどうでしょうか。当時の特急、急行電車と比較してみます。ここでは加速力曲線を見て電車の勾配での強さの秘密を見てみましょう。各曲線は色別に以下のとおりです。

58系気動車6M2m
82系気動車5M2m
153系電車6M6T
181系電車6M6T

加速力曲線は縦軸に加速力をとり、横軸が速度です。 何km/hのとき加速力はいくらかというデータを読み取れます。加速力はkg/tという単位を使います。列車1トン当たりの推力が何kgかという意味です。この値は勾配の値と同じになるので、勾配の均衡速度も読み取れます。

 これを見るとわかるのは、電車の加速力が100km/hくらいまであまり落ちないということです。それに対して気動車はスタート直後だけ高い加速力を持ち、それ以降は急激に減少してしまうという特徴をもっています。残念ながら実際の運転で起動直後の性能が有効ということはあまりありません。30km/hから上の加速力がものを言います。 その意味で気動車はとても不利なわけです。

 勾配の均衡速度という目で見てもその差は歴然。 キハ58なら50パーミルを20km/hで登りますが電車は登れません。 しかし、現実にその性能が問題になることはまずありません。 ところが、25パーミルをキハ58は43km/hで登りますが、153系は80km/h、181系にいたっては95km/hも出るのです。15パーミルを見ると、82系が57km/h、それに対して181系電車は110km/hを超えます。

 これを更にはっきり示すグラフがあります。列車が出せる出力というのは速度とともに変化します。それは搭載している駆動装置の特性で決まってしまいます。重量当たりの出力が速度とともにどう変化するか見てみましょう。 下の図は縦軸がトンあたりの馬力、横軸が速度(km/h)です。列車の色は上の図と同一です。

各列車の諸元から運転整備状態で定員乗車での重量あたりの出力を計算すると、

58系気動車6M2m=7.1PS/t
82系気動車5M2=6.4PS/t
153系電車6M6T=7.6PS/t
181系電車6M6T=6.7PS/t

となり、あまり大きな差は無いはずです。 気動車では最高速度付近でこれに近い値が出ています。エンジンの出力のうち、ファンやコンプレッサの駆動に取られる分と伝達機構でのロスのために消える分が差し引かれるため、実際の出力は諸元よりは低下します。 しかし、電車は架線からエネルギーの供給を受けるため、短時間なら大きな出力を発生できるとう電動機の性質をフルに活かせます。 しかも気動車よりも低い速度で最大となるため、通常の運転で最も出力を必要とする加速時に活用できるのです。しかも上の図を見ると倍近い値となっているのです。

 実際の運転にどう影響するか、東海道線を「こだま」風に走らせて見ましょう。最高速度は電車が110km/h、気動車は82系100km/h、58系95km/hです。

途中、省略していますが、電車特急と気動車特急で16分の差、電車急行と気動車急行で12分の差ということになります。

加速力の差は運転曲線にはっきりと出ています。

山岳線ではどうなるでしょうか。最高速度が低く、曲線通過速度制限が多いため電車の有利さが削がれそうです。 蒸気機関車のときと同じ中央西線を舞台にしましょう。 最高速度は各列車共通の95km/hとしました。

電車特急と気動車特急では9分の差となっています。しかし、急行では気動車が健闘し、わずかに2分差にまで迫っています。 特急よりも速い急行がここにも見られます。 これを象徴する走りが運転曲線のあちこちに見られます。 勾配により電車と気動車ではこうも走りが違うのかと驚かされるような運転曲線です。

多治見発車後の20パーミル登りは性能差を見事に見せ付けています。

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