蒸気機関車と比べたら
1.1エンジン搭載気動車の悲哀
当時の気動車がどんな性能だったか、蒸気機関車と比べてみましょう。
まずローカル線で活躍したキハ17とC12、C58、そして強力なC62との比較です。
いずれも6両編成相当とします。図でC62は360トン牽引となっていますが、ノッチマンの性能変更機能で240トン牽引に変更しています。
まず、何秒後に何km/hまでスピードが出るかを示したのが下の図です。横軸の数字は発車後の時間(秒)、縦軸は速度(km/h)です。
これを見ると、180馬力エンジン1台搭載の非力な気動車でもローカル線向けの蒸気機関車と比べたらかなり加速性能がよいことがわかります。 しかし、C62と比べるとかなり劣っています。
次の図は発車後何mの地点で速度が何km/h出ているかを示したものです。横軸の数字は発車してからの距離(m)、縦軸は速度(km/h)です。
これを見ると、キハ17は本来の最高速度まで加速するのに6キロ近く走らないといけないことになります。駅間距離がちょっと短い線区なら最高速度に達しないうちに減速となってしまいます。
平坦線でこれですから、ちょっと勾配があるともうお手上げ状態。下は5パーミルの勾配上での加速状況です。
C62は何とか100km/h近くまで加速していますが、他の車両はもはや高速運転は期待できません。気動車の場合、困ったことに編成が長かろうが短かろうが性能は同じです。蒸気機関車牽引列車なら客車を減らせば加速性能がよくなります。
次の図は牽引する客車を半分の3両とした場合の例です。
これでは新鋭ディーゼルカーの面目もありません。キハ26による準急が登場しますが、性能的には同じですから編成が短いと蒸気機関車相手の勝負でもかなり苦しいことになります。
2.2エンジン搭載強力編成の威力
これでは気動車の面目が立ちません。キハ55の登場と行きましょう。2台エンジン搭載車6両、1台エンジン搭載車2両(6M2m)の強力編成です。蒸気機関車は優等列車牽引のためC57、C62とし、6両牽引としています。
やはりすごい加速です。C62も及びません。
これなら2500mほどで最高速度になりますから駅間が多少短くても高速運転ができそうです。
3.特急はつかり
実際の運転で性能差がどのように影響したでしょうか。81系気動車特急が登場し、スピードアップが図られた特急はつかりの例で見てみましょう。
下の図は東北本線上野ー黒磯間の走行シミュレーションです。駅の停車時間は30秒とし、列車構成、速度条件は図の上部に記載されたとおりです。
81系が5km/hの最高速度差を生かしてトップです。キハ55編成は何とかC62に勝っています。このシミュレーションでは速度条件を同じにしていますが、実際には気動車のほうが曲線通過速度その他で有利なためもう少し差が開くでしょう。1エンジン車だけの編成ではかなり不利になります。
宇都宮辺りの運転曲線の例です。宇都宮以降のゆるい登り勾配に大きく影響されているのがわかります。81系6M2m1T編成は55系6M2m編成に加速でかなり負けています。6m編成にいたってはC62牽引に負けてしまいます。
4.中央西線
今度は勾配線でシミュレートしてみましょう。 キハ181系が最初に投入されることになる中央西線名古屋−塩尻間です。C62は単機で9両牽引して20パーミルを超えるのは厳しいので重連牽引としました。26に代えて82系6M3m編成を加えました。
なんと、C62重連牽引がトップです。ディーゼル特急軍はどちらもディーゼル急行に負けています。10〜20パーミルの勾配が多い線区だけに性能差が大きく出てしまいました。運転曲線を見るとその差がよくわかります。
上の図は倉本から連続する20パーミルでの走行状況を示す運転曲線です。C62重連は20パーミルでもぐいぐい上りますが、ディーゼル軍はどんどん速度が落ちてしまいます。
勾配が15パーミル前後になると、特急と急行で差が開いてしまいます。55系編成が80系とかなり差をつけながら登っていくのがわかると思います。
このように当時の気動車特急は山岳線で急行に負ける場面もあり、下手をすると蒸気機関車にすら勝てない可能性もあったのです。